
最近少しずつトランプ関税も変化していますが、先日ある銀行の経営者懇談会に出席し、トランプ関税について「なるほどな!」と思う講演を聞いたので、自分なりに簡単にまとめてみました。
1.世界経済の歴史を振り返ると
1991年12月、ゴルバチョフソ連大統領が辞任し、東西冷戦が終結した。そしてアメリカ主導のグローバル経済に突入したこととなる。グローバル経済の意味するところは、もっとも効率のいいところで物を生産し、もっとも効率のいいところで販売すること。これにより、東西冷戦のインフレから脱却して、物価が安定するようになった。
しかし、グローバル経済となり、貧富の格差が増大し移民が増えることとなった。そして、今またインフレの時代となり、移民や貧富の格差により、不満が溜まることとなり、極右、極左の台頭が起こった。その結果アメリカの民意としてトランプ政権が生まれることとなった。
2.トランプ関税について
トランプ政権となり多くの大統領令が発布されることとなった。その一つがいわゆる「トランプ関税」と言われるものである。すべての国が対米貿易黒字国と理解されているが、対米貿易赤字国が3国ある。英国、ブラジル、シンガポールである。実は、これらの国にも10%の関税が課せられているのである。(アメリカの国の収入は関税に寄るところが大きいので、関税を課すことで税収を増やす狙いがある。10%の関税で43兆円の収入となる。これを減税の原資にしようというのである)
アメリカの関税の歴史を紐解くと、南北戦争(19世紀後半)まで遡る。そもそも南北戦争は工業中心の北部と農業中心の南部との戦いであった。高関税は、北部の工業を守るために課されていた。1890年マッキンリー関税法がそれである。南北戦争後、1930年スムート=ホーリー関税法。1930年の関税法によって関税戦争が起こる。この関税法は、1929年の世界恐慌後の世界をさらに不安定化させた。特に第一次世界大戦の賠償金を支払いに苦しむドイツ(輸出に頼る国)に不満の種を植え付け、第二次世界大戦へと向かうきっかけとなった。この経験から、GATTができ、アメリカ主導で自由貿易体制が築かれていくこととなる。
3.その他話のポイント
①中間選挙(2026年11月)
・上院100人の内33人が改選(うち20人が共和党)
・下院450人の半数が改選
・上院で共和党が過半数を保つのは厳しい
②大統領任期
アメリカに工場を作ってもトランプさんの任期が終わってしまう。
その後政策が維持されるとは限らないので、アメリカに工場を作る意味があるのか。
③雇用問題
アメリカの失業率は低く、実質完全雇用状態にある。
移民を止める政策により賃金が上昇する原因となり、人手不足が深刻化していく。
今後、移民を受け入れないといけない状態ではないか(アメリカ経済のドライブは、移民である。出生率が1.6であるアメリカで移民を受け入れることは重要)
4.日本の賃上げについて
a.労働生産性が高い国 ➡ 賃金が高い
b.同一企業に10年以上勤務する(雇用の安定) ➡ 賃金が低い
bは、考察元のデータがいわゆる失われた30年のデータだとすると、この結果があり得るのではないか。バブル崩壊直前までのデータと比較すると違う結果が出るのではないかと勝手に推測しました。
5.海外投資が鍵
2024年度の日本の国際収支は、
・貿易収支は6.5兆円の赤字
・第一次所得収支は40兆円の黒字
・その他差引ありトータルで29兆円の黒字
・海外で儲けたお金が戻ってきているので、海外投資はこれからの鍵となる
とのことでした。
これらにより簡単に自分の考えをまとめると、
①自由貿易を維持しその恩恵を受けようとGATTが生まれたのであるが、トランプ関税は自由貿易を否定し、世界経済を縮小へと向かわせるのではないかと思われる。
こう考えるとトランプ関税は、アメリカの弱体化を招くのではと思われるのである。
②賃金を上げるには、生産性を上げるしかない。今回の話からはどうすれば生産性が上がるか掴めなかったが、個人的には付加価値を上げて販売価格を上げることしか思いつきませんでした。
あとは経済全体で持続的に労働生産性を上げていく仕組みづくりを国の施策として要求していきたいところである。もっとイノベーションを起こさせる環境を作ることなどの施策を積極的に講じてほしい。例えば優秀な外国人の流入(多様性の推進)や投資を推進する税制などである。
③長く会社に勤めることは、会社へのロイヤルティを上げ、心理的安全性から新たな知恵が創造されるように思うが、実際はどうなのか検証する必要があるように思う。
④今後、労働の流動性が高い欧米的な労働市場が構築されていくとなると、労働生産性が低い企業は市場から出されてしまう可能性が高くなり、チャレンジして生産性を上げ会社を良くするしかない。
⑤海外投資については、日本は海外投資によって、その利益で収入を増やすべきとの意見と捉えました。ただ海外で稼いだ利益が日本に戻らずにそのまま海外投資されるのでは意味がないのではとも思う。利益が日本に戻ってきて日本人の生活を豊かにするために使って欲しいものである。そういう意味も含めて、私たち中小企業の生きる道を考えさせられる内容でした。